僕のアリス




私は無類の猫好きだ。


ある日私は、あまり行ったことのない、閑静な住宅地(ちょっと上流っぽい家並みの場所だ)を散策していた。
すると高い塀の上を猫独特の優雅な仕草で歩いている白い猫を見つけた。
ゆっくりと近づいていくと、こちらを見はするものの、逃げようとせずマイペースに塀の上を歩いている。
綺麗な毛並みだったので、触りたいと思った。だから猫について歩いて行った。

しばらくすると塀が生垣に変わった。だいぶ背は低くなったものの、まだ猫に手は届かない。
猫はそのまま進んでいき、生垣の切れ目で下に降りた。
チャンスと思って私は走ってその切れ目で横に曲がった。

その先は芝生になっていて… …猫はいなかった。
けれど、その家の白く塗られたペンキや、すすけた屋根の板が、少しはがれている様子が…
何か気になって、じっと見つめていた。
どのくらい見つめ続けていたのだろう。気が付くと綺麗な女性が立っていた。

「いらっしゃい。何か御用?」
「あ…ごめんなさい、えーと…」
「ああ、いいのよ。ここはオープンにしてあるの。だから門もつけてないみたい。
 ちょうどお茶が入ったんだけど、あなたが見えたから。一緒にどう?」

見ず知らずの相手をお茶に誘うとは…何者なんだ、ここの家人は…。
私が答えに躊躇していると、それを見透かされたのか

「ああ。この家は誰に対してもオープンなのよ。私もこの家の住人じゃないし」
「はあ…そうなんですか…」
「人数が多いほうが楽しいわ、よってって。私はマンディ。よろしくね」
「あ、はい…あの、私…」

名乗ろうとしたら手を上げて静止させられた。

「新人さんは自己紹介はいいの。名前は家主さんがつけてくれるから」
「は、はあ…?」

何かよくわからないけど、謎のお茶会に混ざることになってしまった。





玄関からまっすぐ歩いていくと、リビングがあった。
ブラインドはみんな下ろされていて、少し薄暗い。
2,3人の男の人が、足の低いリビングテーブルを囲みながらテレビを見ていた。
その向こうには、車椅子に乗った男の人がひとり、ぼんやりこっちを見ていた。
マンディさんが手を叩いてお茶の時間だと言った。

「今日は奇をてらって抹茶にしてみました!! あ、女性コーナーはあっちね」

指さされたほうはちゃんとしたダイニングテーブルであった。
最近奇をてらってばっかりじゃないかーと男の人たちのブーイングを軽くかわし、
お茶碗を配るマンディさん。
車椅子の人には特別良いお茶碗な気がした。

「あの人がね、家主さん」

マンディさんが車椅子の人を見ながら静かに言った。







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